身体は何日も湯を浴びていなかったらしい。汗ばんでいてとても気分が悪かった。


まつに連れられ湯治場まで行った。
土埃などで薄汚れた髪を洗うと、美しい金の髪が姿を見せた。
そして湯につかり、今までの記憶を辿ってみるが、やはり何も覚えていなかった。
瞳を閉じると、頭によぎるのはこの名と誰かの微笑みだけ。


――わたしはどうやら一部の記憶が無いらしい。


意識を飛ばしながら、ふと自身の身体を見た。
酷くやせ細った身体はあばら骨が浮き出ていて、赤黒いあざがたくさんあり、それは女の身体とはとても呼べないものだった。しかし、この傷でさえ覚えが無いのだ。
そんな傷跡をさすりながら丸くなると、不安で胸がいっぱいになり涙がこぼれてきた。

「わたし・・これからどうしたらいいんだろう・・・。」

湯からあがると、侍女がいて着物を着せてくれた。
朱色のきれいな着物で、こんな高価そうなものを自分が着ていいのかとさえ思ったが、侍女にされるがままにしていた。
着替えると、庭先が見える部屋へ連れて行かれた。
そこにはまつがいて、こちらを驚いた様子で見ていた。

こんなにも美しい少女を見たことがない。
背真ん中あたりまで延びた薄い金の髪。
長いまつげに空色の瞳。
すべてに見入ってしまった。

そんなまつを、りくが不思議そうに見つめていたのでふと我にかえり、微笑みながら言った。

「まぁまぁ、綺麗になって。さっぱりしたかしら?」

この笑顔を見ると妙に心が安堵して気持ちが穏やかになるのだった。



「まつ〜?まつはいるかぁ〜??」

廊下の方から、響く声が聞こえた。
どこかで聞いたことがある声だった。

「犬千代さま!!まつはこちらにございまする。」

今度はまつが高い声を響かせると、さきほどの声の主は姿を見せた。


「まつ〜。こんなところにいたか!ん?お前は・・無事だったのか!良かった。」

犬千代と呼ばれるその男はこちらを向いて優しく笑っていた。
りくがきょとんとした顔で利家を見つめていると、まつは気をきかせ話に入った。

「りく、犬千代さまが貴女を助けてくださったのよ。犬千代さま、これはりくと申します。」
「あ・・あの、ありがとう・・ございました。」
「無事でよかった。安心しろ、もぅ怖いものはないからな。」
おどおどと答えるりくの頭にポンポンと手をあてて利家はまた笑った。

「ところで、お前はなんであんなところに倒れていたんだ?」
「・・・・よく覚えてないんです・・・ごめんなさい・・何も思い出せなくて・・自分が今までなにをしてきたか・・何も分からないんです・・・・・」

そう言うと、りくはポロポロと涙を流した。
思い出そうとするたびに、胸の中でいろんなものが膨らんで破裂しそうでとても辛かった。

利家とまつはそんなりくを見ながらも顔を見合わせて驚いていた。
今までいろんな人間を見てきたが、記憶をなくした人間など見たことも聞いたこともなかったのだから。
2人とも困り果てていたが、利家がふいに口をひらいた。






「では。帰る所が見つかるまで、今日からお前は某とまつの子だ。」









うーん。いまいち上手く話が進んでゆかない・・・!
次あたりには慶次だしたいなー。